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「冒険する組織」とは?権力や報酬に頼らない組織づくりのヒント【後編】
「PeaCAL Talk」シリーズでは、地域に根ざしたコミュニティ・イベントの主催者に焦点を当て、その活動や経験を深く掘り下げていきます。
前編に引き続き、『冒険する組織のつくりかた』の著者であり、人と組織の経営コンサルティングファームMIMIGURIの代表を務める安斎勇樹さん、そして10年以上にわたってボランティアコミュニティTEDxHamamatsuを運営している河口哲也さんをお招きし、「変化し続ける組織のあり方」について伺いました!
▼前編はこちら
変わり続けることを前提にした組織づくり
山宮:
これまで「自己実現」や「報酬」のあり方について話してきましたが、組織を持続的に成長させるには、信頼関係や文化が重要になりますよね。権力に頼らない組織を継続させるための「カルチャーづくり」について、どう考えますか?
河口さん:
「カルチャーがないことがカルチャー」なのかもしれませんね。
TEDxHamamatsuでは、毎年新しいメンバーが入ってきます。実はこれ、以前山宮さんに言われた言葉がずっと心に残っていて。「周りから見れば何年目の組織かもしれないけど、このメンバーでやるのは1回目なんだよ」と。
この考え方がすごく大事だと思っていて、だからこそ、毎年ゼロからやり直すことを意識的にやっています。具体的には、毎回「TEDxのルールをみんなで読み合わせる」ところから始めるんですよね。
めんどくさい作業ではあるんですが、これを続けることで、毎年「新しいチーム」として始める感覚を持ち続けられる。それが、「固定化されたカルチャー」を持たないことにつながっているのかもしれません。
安斎さん:
なるほど、その視点はすごく大事ですね。
組織づくりやカルチャーづくりというと、「強固な文化を言語化し、定義して、それを守っていく」ことを考えがちですが、それって本当に今の時代に合っているのか?という疑問があります。というのも、現代の組織って、外部環境がものすごく変動するわけですよね。
事業の形態を変えたり、ターゲットを変えたり、BtoBからBtoCにシフトしたり。リアルなサービスをIT化したり。ビジネスは目まぐるしく変わるし、人のモチベーションも変わる。だからこそ、「変わり続けること」自体を、組織の文化の中に組み込んでおくことが重要になってくるんですよね。
僕自身、MIMIGURIで「経営理念を頻繁に訂正する」ということを意識的にやっています。
普通、経営理念って「一貫性を持って変えないこと」が美徳とされがちですよね。でも、僕は半年に一度くらいのペースで訂正し続けているんですよ。「また経営理念変えます!」って言うと、社内のチャットで「またか…もう何も信じられない」とかツッコミが入るんですが(笑)。
とはいえ、「理念の芯の部分」は大きく変わっていないんです。ただ、その時々の状況に合わせて訂正を続けていると、組織のメンバーが「変化し続けること」をストレスに感じなくなるんですよね。むしろ、「変わり続けるのが当たり前」という感覚になっていく。
だから、「変わらない何かを定義する」のではなく、「変わり続ける運動そのものを文化にする」。これこそが、個々人の自己実現とも相性がよく、組織としても持続可能なあり方なんじゃないかと考えています。
リーダーの新しい役割とは?
山宮:
安斎さんの話の中で、リーダーとしての役割について触れられましたが、組織とリーダーの関係についてさらに深掘りしていきたいと思います。
河口さんは、TEDxHamamatsuのオーガナイザーを長年続けてこられていますが、ご自身のリーダー像についてどのように考えていますか?
河口さん:
僕はよく「星飛雄馬のお姉さん」みたいな存在を目指しているって言うんです(笑)。
世代によってはピンとこないかもしれませんが、『巨人の星』に登場する星飛雄馬の姉、明子さんって、いつも柱の影から見守っているんですよね。まさに、そういう立ち位置でありたいなと思っています。
極端な話、もし僕が今日この後、突然いなくなったとしても、TEDxHamamatsuは問題なく運営されてほしいと思っているんです。
僕の役割って、あくまで「決めなきゃいけないことを決める人」なんですよね。でも、それ以外のことは基本的にみんなで決めてくれればいい、と思っています。
山宮:
河口さんは「受け身のリーダー」という言葉をよく使っていますよね。
自分が主導するのではなく、メンバーの判断を尊重しながらリーダーとしての役割を果たしているように感じます。このリーダー像は、安斎さんの『冒険する組織のつくりかた』ではどのように捉えられるのでしょうか?
安斎さん:
精神的・感情的な動機を大切にすることで、人が自律的に動きやすくなるという観点から見ると、「受け身のリーダーシップ」は非常に重要だと思います。トップダウンではなく、あえて「見守る」関わり方をすることで、組織内に信頼関係が生まれ、一緒に働く意味が醸成されていく。これは、権力に頼らない組織運営において、とても有効なリーダーシップのあり方だと思います。
ちょっと話がずれるかもしれませんが、最近、漫画を読むのがしんどくなってきたんですよ。昔は新しい漫画を読むことにワクワクして、連載が始まると毎週ジャンプを欠かさず追っていた。でも最近は「終わったら教えて」と思うようになり、惰性で追うのが辛くなってきました。
ただ、それでも楽しみにしている漫画はいくつかある。たとえば、『ONE PIECE』は次の展開が気になってしょうがない。今週も「来週休載か…このタイミングで休載はキツいな」と思いながら読んでいました(笑)。
これって、組織づくりにおいても大切な考え方だと思っていて。今の時代、「この会社にいないと生きていけない」というような強制力が弱まってきています。兼業や副業が当たり前になり、転職もカジュアルになったことで、「なんとなく10年同じ会社にいた」という状況が生まれにくくなりました。
そうなると、社員が「この組織にいたい」と思えるかどうかは、その会社の“連載”が面白いかどうかにかかっている。ワクワクできる展開がなければ、人はその組織に居続ける理由を感じなくなります。
TEDxHamamatsuのメンバーも同じで、「一昨年はこうで、去年はこうだった。今年はどうなるんだろう?」という期待感があるからこそ、また関わりたいと思うんじゃないでしょうか。だから、リーダーの役割のひとつは、「みんなにとって、この組織の“連載”の続きが気になるようにすること」なんだと思います。
組織運営とキャリアのための「楽しみ」のデザイン
山宮:
組織をどうストーリー化し、次の展開を楽しみにさせるのか——それがリーダーの重要な役割という話がありました。TEDxHamamatsuのようなボランティアコミュニティが、今後も続いていくために、オーガナイザーとしてはどのようなことを考えていますか?
河口さん:
さっきの安斎さんの話をもう一度振り返りたいですね。「楽しみをデザインする」とか、「楽しみを見つける手助けをする」という視点は、自分の中にあまりなかったんです。
見守るだけじゃなくて、「こういう選択肢もあるよ」「こんな面白いことがあるよ」と示してあげることも、リーダーの役割なのかもしれないと気づかされました。今までやっていなかったことなので、これから意識して取り入れたいですね。
山宮:
安斎さんが話していた「組織を維持しながら、楽しませ続ける」という考え方は、今後の組織運営において大事なポイントになりそうですね。
安斎さん:
そうですね。これは組織作りだけじゃなく、仕事を続けていく上でも重要なことだと思います。結局、キャリアデザインの話と表裏一体なんですよね。
だから、今回のテーマは、リーダーや経営者だけじゃなく、あらゆる人が考えるべきことだと思います。僕自身、次の本ではキャリアデザインについて書きたいと思っているんですけど、「自分の人生という連載の作家でありながら、読者としても楽しむ」という視点が大事なんじゃないかと感じています。
楽しみになる連載を書けていないと、仕事はただのルーティーンになってしまう。自分の冒険を、自分自身でデザインする——そんな考え方が、キャリアにも組織運営にも必要なんだと思います。
『冒険する組織のつくりかた』とプロモーションイベント
山宮:
最後に、安斎さんの新刊『冒険する組織のつくりかた』について、そして各地でのプロモーションイベントについて、一言お願いします。
安斎さん:
この本は、経営者やリーダーだけではなく、「仕事がつまらない」と感じている人にもヒントを与えられる本だと思っているので、ぜひ読んでほしいですね。
また、ありがたいことに、この本をきっかけに各地でイベントが開催される予定です。そこでは、ただ本の解説をするだけではなく、関心を持つ人が集まり、新たなつながりや活動が生まれる場にしたいと思っています。
僕自身、「また来たい」と思える場をつくることを大切にしています。TEDxHamamatsuも、最初に関わったときに「また来たい」と思ったからこそ、今回も参加することになりました。同じように、イベントが「また参加したい」と思える場になれば嬉しいです。
山宮:
ありがとうございます。本を読むだけでなく、直接安斎さんと会える機会なので、ぜひイベントにも足を運んでほしいですね。
また、これからの組織のあり方を模索することは、先送りできるものではなく、今すぐ考えなければならないテーマだと改めて感じました。皆さんにも、ぜひこの本を手に取ってもらいたいと思います。
安斎さん、河口さん、ありがとうございました!