医療者じゃない私にもできること~多様な視点が支えるがん医療の未来~ [医療系コミュニティインタビュー#2]
日本の医療業界には、日々多くの命と向き合い続けるプロフェッショナルたちがいます。
ピーティックスでは、医師や薬剤師、看護師など、医療業界を支える人々が集まり、それぞれの経験や知識を共有する場としてご利用いただいています。
今回は、そんな医療の最前線で活躍する方々と、彼らのコミュニティにスポットライトを当て、その活動や取り組みについてお話を伺いました。
今回お話を伺ったのは、CancerXの半澤 絵里奈(はんざわ えりな)さんです。
半澤さんは、一般企業で働く傍ら、CancerXというコミュニティを運営されています。
CancerXでは、医療者、非医療者に関わらず、多様な立場の人が集まり、力をかけ合わせることで、がんの社会課題の解決に取り組んでいます。
ーー本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは、半澤さんのご活動について教えてください。
CancerXは、バックグラウンドが異なる人たちが、それぞれの専門知識だったり、これまでの経験や技能を寄せ集めて、みんなで課題を解決することを目指しています。
私たちは、がんの医療的、社会的課題の解決に向けて、様々な分野の人たちが一緒に活動していて、具体的には、医療者、研究者、行政関係者、会社員、個人事業主やアーティストがいます。
1年間の活動で見ると、2月4日のワールドキャンサーデーを中心に実施をしている、ワールドキャンサーウィークという1週間のカンファレンスが2019年からメインの活動になっています。活動を始めた最初の数年間は、カンファレンスの開催だけで精一杯だったんですが、 だんだんネットワークが広がり、課題を細分化したCancerX Agenda(アジェンダ)というものを発表することができました。最近は、それに付随する分科会的なものが発生してきていて、2月を中心に、情報を集約して皆さんに共有したり、ディスカッションの場を設けるという活動に変化してきています。
ーー活動の中で、CancerXとして特に力を入れている活動は何ですか?
ワールドキャンサーウィーク以外では、防がんマップという、 “がんになる前”や”がんにかかったとわかった時”に迷子にならないために情報をまとめたものがあります。
このマップは、自分や家族のことを考え、よりどころにできるツールとして作っています。最近では、神奈川県と一緒に神奈川県版を作りました。
もう1つは、「CancerX Pharma(ファーマ)」というコミュニティがあります。がんの医療的社会課題について、製薬企業の人たちも交えてディスカッションする分科会の場です。複数の製薬会社の方々が一堂に会し、1つの課題に一緒に向き合おうということで、CancerXがホストとなりコミュニティを運営しています。
また、2020年コロナによって外出制限などもあったタイミングのときは、不安を抱えているがんの当事者やご家族がお医者さんに意見を求めたり、ディスカッションができるオンラインセッションと、医療者限定のオンラインセッションの2つを作って、社会の変化に応じて、皆さんに情報提供するというようなこともやっています。
ーーこの活動を始められたきっかけや背景は何だったのでしょうか?
きっかけとしては大きく2つあるかなと思います。
1つは、共同発起人の1人、鈴木美穂というメンバーの存在です。彼女は元々放送局でキャスターをしていたメンバーで、自身の乳がんの罹患経験を基に様々な活動しています。また、マギーズ東京という、がんに関して何か困り事や悩み事がある人が誰でも行ける相談場所であるNPO団体の共同代表でもあります。私と彼女は小学校の時の友達で、たまたま再会してお茶をしている時に、彼女ががんに関する取り組みをしてるのを知って、私もがんに関して活動したいことがあったので、一緒にやろうというところにたどり着きました。
2つ目は、私自身がケアギバーとしての経験が複数あることです。5歳の時に叔父を胃がんで亡くして、高校時代には祖父もがんで亡くし、7年前に母もがんで亡くしました。
母の時は、抗がん剤治療やがんの告知に関する世の中の考え方が変わっていて、本人が全てを知っている状態で治療するかどうかの選択肢もある状態でした。ですが、変わらないのはがんという病気に対する根本的な恐怖感や価値観だなと思っています。
その叔父と母は兄弟なので、私の祖母は子どもを2人とも自分より先に失ってしまった形になりました。祖母ががんという言葉に対する恐怖感に常に苛まれているのを見ていて、 世の中の考え方や医療がこんなに進化しても、彼女の恐怖感とか、それに巻き込まれる家族の感じは全く変わらなくて。
医療の課題はもちろんですが、社会の課題を一緒に解決しなきゃいけないということと、当事者や家族に起きていることを医療者の人にもっと知ってもらわないと、情報の提供の仕方を含めて変わらないと思ったのがきっかけです。
ーー半澤さんがこのコミュニティを運営する中で、1番大事にされてることは何ですか?
CancerXというコミュニティの「多様性を失わない」ということですかね。
ジェンダーバランスやバックグラウンドの多様性もそうですし、がん経験の有無、住んでいる地域、年齢や世代の多様性も含まれます。住んでる地域やお仕事、家族の状況が異なれば、価値観は大きく異なるので、できるだけ価値観の多様性を取り込むということ。そのために、毎年ボランティアから社員を採用したり、ボランティアをできるだけ広く募ったりという工夫をしています。
医療者の多様性も大事にしていて、医師の中にも、がんでいうと緩和ケアだったりとか、内科の先生だったり。私たちの共同発起人の1人はアメリカのドクターなんですが、日本とアメリカとではかなり医療に対する考え方や個人に対する考え方、患者さんとドクターの関係性が全然違うんですね。そういう点も含めて、価値観が違うとか、考え方や環境が違う人の意見を取り込むということが重要だと思います。
また、「医療情報の信憑性」にも、すごく気をつけています。
がんの領域って、情報がたくさん出回っているんですね。なので、いろいろな方や団体からお声がけをいただけるんですが、 毎回私たちは医療者と非医療者も含め、ファクトを確認し、組織や人とつながってコミュニケーションしていくことで、本当に皆さんにとって役立つ情報を届けられると考えています。
ーーこのコミュニティを続けてきてよかったと思うことは何ですか?
コミュニティやイベント・カンファレンスを通じてお会いできる方々が持っているストーリーを伺ったり、参加し続けてくれているファンの方たちの変化を見るのが個人的には1番嬉しいです。また、CancerX Agenda(アジェンダ)という、がんと言われても動揺しない社会を作るために「達成すべきこと」のリストを発表できたのも、よかったなと思っています。世の中の課題をきちんとアジェンダ化して、オープンにして、いろいろな人がいろいろなレイヤーでがんの課題に関わることが、私が普段仕事で培ってきた物事の考え方なので、 プロボノ的に自分の経験が医療の中に少しでもアウトプットできたことは非常によい経験だなと思いますし、私1人ではできなかったことだと思います。
ーー医療者じゃない私たちができることは、具体的にどんなことがありますか?
医療者だけでカンファレンスをやるのと、私たち”非”医療者が関わるのでは、大きな差が生まれるんです。
看護師さんや薬剤師さんはもちろんのこと、企業の中で人事としてがんを見ている人や当事者としてがんを経験してる人など、多様な人の視点が加わることによって、自分が知らない盲点をなくしていけることが大事だと思います。
”非”医療者の私たちを含めた、いろいろな視点があることで、 私たちがどうしたらイベントを通して世の中に貢献できるかとか、世の中の課題を解決できるかという議論の”解”みたいなものを見つけていけるのかなと思います。
ーーありがとうございます。日々医療業界を支える皆さんにメッセージをお願いします!
日本では2人に1人ががんにかかると言われているので、 誰にとっても無関係ではない課題だと思います。私たちが今アプローチできているのは、がんに関わる人だけですが、できれば医療の世界の中でも、さまざまな疾病に関わっている人たちともっとディスカッションをしなければと思ってます。
多くの人たちとディスカッションしていくことで、より広く課題を捉えて解決に向かっていけると思うので、医療業界を支える皆さん、ぜひ一緒にディスカッションをしましょう。ディスカッションを通して見つけられることや、お互いへの刺激が何かあるんじゃないかと信じているので、ぜひディスカッションの場に多くの方に来ていただいて関わっていけたらと考えてます。
ありがとうございました!
ピーティックスは、これからも半澤さんとCancerXのご活動を応援しています。
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