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TEDxICUが生み出す学びときっかけの場——スピーチを“聞く”だけではない「TED」とは?
ジェンダー平等、政治参加、気候変動――。いま、さまざまな社会課題に関心を持ち、行動を起こす若者たちが注目されています。若い世代が作り出すコミュニティは、それぞれのテーマに真剣に向き合い、多くの人を巻き込みながら活動を広げています。
イベント・コミュニティプラットフォームであるピーティックスでも、政治や環境問題、ジェンダーなどをテーマに若者たちが数多くのイベントを開催し、新たなつながりを生み出しています。
今回は、そんな若者コミュニティの活動や、それを支える思いについてお話を伺いました。
お話を伺ったのは、TEDxICUの市瀬さくらさん、柴田凜乃さん。
TEDxICUは、アイデアを表現できる場・インスピレーションを受ける場・新たな行動を起こすきっかけの場、の3つの「場」を創ることを目標とした非営利団体です。
TEDのビジョンである「価値あるアイデアを広く共有する」という理念を追求するべく、スピーチイベントの開催に向けて活動しています。
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代表 市瀬(いちせ)さくらさん
国際基督教大学2年、大学入学とともにTEDxICUに加入し、1年目はPRチームのメンバーとして学内外の広報活動に注力。その後2年目で団体代表に就任。大学生活では、行動力と人とのつながりを大切にし、現在体育会系部活のキャプテンとTEDxICUの代表を両立している。
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副代表 柴田凜乃(しばた りの)さん
国際基督教大学2年生。幼少期から国内外での引越しを繰り返す環境の変化が多い中で、多様な価値観に触れ、経験を積む。
高校生の頃から英語学習ツールの1つとして身近な存在であったTEDの“Ideas worth spreading”というモットーに共感し、大学1年生時にTEDxICUの活動を始める。1年次はオフステージチームの副リーダーとしてスピーチイベントの舞台構成や団体のブランディングに取り組む。現在は副代表として、総勢42名のメンバーを統括しながら、スピーチイベントの企画や運営、協賛企業との連携に携わる。
学びと交流を深める、TEDxICUの活動とは?
ーー市瀬さん、柴田さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは、TEDxICUの活動内容をご紹介いただけますか?
市瀬さん:
TEDxICUは、「価値あるアイデアを広く共有する」というTEDのビジョンのもと、アメリカ本部からライセンスを受けてスピーチイベントを開催する非営利団体です。
国際基督教大学(以下:ICU)はリベラルアーツ教育を実践していて、学生が日々さまざまな価値観に触れ、批判的思考を深める環境にあります。私たちは、ICUの学生や教員、地域の方々を含め、誰もが参加できるオープンな場を提供することで、学びの場として社会へ還元することを目指しています。
柴田さん:
私たちは1年生と2年生の2学年、計42名で活動しています。
TEDxICUは、TED Talksの理念を受け継いでいますが、単にスピーチを聞くだけでなく、その後の「ダイアログセッション」も大きな特徴の1つです。この時間では、スピーカーと参加者が直接対話したり、参加者同士で意見を交わしたりすることで、新たなインスピレーションやコミュニケーションが生まれることを大切にしています。
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ーーコミュニティを運営する上で、1番大切にしていることは何ですか?
市瀬さん:
私が活動する中で特に大事だと感じるのは、「透明性」と「共感性」の2つです。
TEDxICUはチームごとに役割を分担して活動していますが、その分、情報がチーム内で完結してしまいがちです。でも、チーム間でのコミュニケーションがあるからこそ、より良いイベントや新しいアイデアが生まれると思っています。なので、団体内で何が起きているのかを常に共有して、必要な情報がメンバー全員に行き渡るよう、透明性を大切にしています。
もう1つが共感です。グループで活動する上で、お互いの立場を理解し、共感することはとても大切だと考えています。PR担当や代表という自分の立場だけでなく、他の役割の視点でも物事を考えられるよう意識しています。
柴田さん:
私は、「フラットな環境」と「1人ひとりの価値を高めること」の2つを意識して、活動してきました。
TEDxICUには前年度からのメンバーと、新しく4月に加入したメンバーがいます。そうすると、どうしても経験の差が生まれ、コミュニケーションが円滑にいかないことがあります。本来なら生まれるはずのコラボレーションが、お互いに遠慮してしまうことで生まれないのはもったいないと思います。
だからこそ、先輩・後輩の垣根を越えて、同じ目線で意見を言い合えるフラットな環境を整えられるように、ミーティングのやり方を工夫したり、TEDxICUの活動外の時間でもメンバーと積極的に関わることを大切にしました。
もう1つは、「1人ひとりの価値を高めること」です。今年はありがたいことに42名ものメンバーがいて、それぞれチームごとに業務も分担されています。人数の多い中で、「自分がこのコミュニティにいる意味」を感じながら活動してほしいという思いがありました。
副代表として他チームのメンバーとも関わる機会が多かったので、対話の中でそれぞれがどんなことを考え、どんな悩みを持っているのかを引き出しながら、「TEDxICUにいる意義」を感じ、自主的に活動に取り組める環境を作ることを心がけていました。
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ーーコミュニティを一言で表すと?
市瀬さん:
「交差の場」だと思います。これはICUの特色でもあると思うのですが、本当にさまざまな活動をしている学生が多いんです。
私自身もライフセービング部に所属していて、TEDxICUだけが自分のコミットメントではありません。メンバーもそれぞれ違う環境から多様なアイデアや価値観を持ち帰り、それが交差して新しいものを生み出している団体だと思います。
代表として活動する中で、コミットメントが重くなることもありました。でも、1つのことに集中しすぎると、思考が閉ざされてしまうこともあると感じました。なので、他の活動もしながら、広い視野を持って取り組むことを大切にしています。
柴田さん:
私は、「ジグソーパズル」だと思っています。
これまで活動してきて、メンバー1人ひとりが持つ様々なな力に驚かされてきました。動画編集が得意な人、場を盛り上げるのが上手な人、綿密な計画を立てるのが得意な人——そうした1人ひとりの才能のピースが組み合わさることで、1つのスピーチイベントという絵が完成していると感じます。
もちろん、ピースの形が異なるからこそ、考え方の違いもあります。お互いのピースが最初からぴったりかみ合うのは難しいですが、、コミュニケーションを重ね、信頼関係を築くことで、想像を超えるようなコラボレーションを生むことができると思います。
新たな挑戦を後押しする場へ
ーーコミュニティの活動やイベントが、メンバーや参加者にどのような影響を与えていると感じていますか?
市瀬さん:
もともとTEDのスピーチを視聴する側だった私にとって、TEDは知らない世界を教えてくれる場でした。TEDxICUの活動を通じて、参加者にとっても新しい世界に踏み出す勇気を持てるようなコミュニティになれば嬉しいと考えています。
日々同じ環境で過ごしていると、自分の世界がある程度決まったものになってしまいがちです。でも、まったく知らない世界や人々に触れることで、新しい挑戦をしてみようという気持ちが生まれると思います。TEDxICUが、そんな挑戦を後押しできる場であればいいなと思っています。
柴田さん:
日々の活動を通じて、メンバーは周囲への感謝を実感しています。非営利団体である私たちは、スピーチイベントの開催のために協賛金を集める必要があります。そのため、企業や大学関係者の方々を始め、たくさんの協力をいただきながら活動を進めています。
もちろん、メンバー自身の努力は欠かせない要素ですが、活動を通して周囲の支えに対する感謝の気持ちをより強く持つようになり、それが次の活動へのモチベーションにも繋がっていると思います。
そして、参加者への影響についてですが、TEDxICUのイベントの特徴の一つに「ダイアログセッション」があります。スピーチを聞いて終わるのでではなく、その後に参加者同士やスピーカーと直接対話できる機会を設けているからこそ、さらなるアイデアの交換やインスピレーションが生まれているのではないかと思います。
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ーーこれからコミュニティをどのように発展させていきたいですか?
市瀬さん:
個人的な野望ですが、「ICUの学生団体といえばTEDxICU」と認識されるような存在になれたら嬉しいなと思っています。
現在は、「TEDx」という肩書きや「ICU」という肩書きに興味を持ってくれる方が多いと感じています。でも、TEDxICUをきっかけにICUそのものに興味を持ったり、他のTEDx団体にも足を運んでみたりと、新たな関心を持つきっかけになるような団体になれたら理想的だなと思っています。
柴田さん:
メンバーも参加者も楽しめるこれまで以上に大胆でクリエイティブなイベントを創れるような団体にしたいと考えています。
TEDxICUの他にも日本や世界中の大学にTEDxのコミュニティがありますが、その中でも私たちはまだ歴史の浅い団体です。日々の活動が試行錯誤の連続である反面、歴史が浅いからこそ自由度が高く、新たな挑戦をしやすいことは大きなアドバンテージだと思っています。
メンバーのスキルのインプットはもちろん、そして去年から特に力を入れているSNS発信によるアウトプットによって、TEDxICUの価値をさらに向上させていけたらいいなと考えています。
ーー最後に、同世代の若者へ向けて、どのようなメッセージを伝えたいですか?
柴田さん:
今の同世代に伝えたいのは、「自分の物差しを持って行動や判断をしてほしい」ということです。
これは私自身もいつも意識していることなのですが、今は情報があふれていて、つい他人と比較してしまったり、友達との会話や世の中の流れに影響されて、自分の意見を見失ってしまうことが多いと感じます。その中でも、自分の価値観や軸をしっかり持ち、それを発信してほしいと考えています。
「自分の物差しを持つ」ためには、経験や知識も必要で、決して簡単なことではないと思います。でも、誰かの物差しで測られる人生よりも、自分の物差しで選び、考え、発信できるようになれたら良いなと思っています。そして、そうした価値観を大切にする社会になってほしいという思いもあります。
市瀬さん:
私は高校生活を終えて、大学に進学してから自由度が一気に上がったと感じました。その自由を得たタイミングで、ぜひみんなに伝えたいのは「挑戦すること」です。
今の世の中には、保守的になる理由はいくらでもあります。つい安全な道を選びがちですが、自分が興味を持ったことや好奇心に素直になることで、新しい世界が広がると思います。ぜひ、さまざまなことに挑戦してみてほしいと思います。
TEDxICUも、今年度さらなる「アイデアの交差点」を目指し、様々な挑戦を行なってきました。例年のメインイベントテーマに加え、「MOMENT→MILESTONE」という年間活動の軸となる長期テーマを提案し、TEDxICU史上初のミニイベント「MOMENT」を実施しました。また、TEDxICUの世界観をより多くの方に楽しんでいただくため、TEDxICU史上初めてイベントを学外、有料にて行いました。
これらの挑戦にはもちろん困難もありましたが、まさにTEDxICUは挑戦をしたことにより様々な「MOMENT」に立ち会い、その成長を経て、メインイベントという「MILESTONE」を迎えることができたのではないかと感じています。
ーー市瀬さん、柴田さん、ありがとうございました!
TEDxICU
ピーティックスページ:https://peatix.com/group/11929622
ウェブサイト:https://www.tedxicu.org/
Instagram:https://www.instagram.com/tedxicu.official/